介護ロボット(業務支援分野)開発実施の経緯
私が介護の仕事に関わり始めたのは2005年(平成17年)、母体となる宗教法人からの依頼でした。大学の卒業論文こそ「視覚障害者のための歩行ガイドシステムの研究」でしたが、その後福祉の世界との縁があったわけではありません。ただ2000年(平成12年)に介護保険が始まったことは大きなニュースになっていたので、介護は新しい分野なのだという認識はありました。特に深く考えたわけではありませんでしたが、面白そうだしやってみようと引き受けました。
当時の小泉内閣三位一体の改革もあり、施設サービスの介護報酬は第1回の改定で減額、建築整備費の助成も減額、内示も延期と最初から想定外が続きました。5月に内示、7月福祉医療機構の貸付審査、9月社会福祉法人設立、各種規定、5カ年運営計画作成、建築の入札準備、12月からはスタッフ採用面接など主要メンバーを決めるまでが私の仕事でした。約8ヶ月、地域初のユニット型特養ということで分からないこともたくさんありましたが、なんとか土台作りをして、あとは実務が分かっている方々に引き継ぎ、ここで関わりは終わるはずでした。
2008年(平成20年)、うまくいっていない部分があるという相談を受け、現場の状況を確認すると、従来型特養のやり方とユニット型特養のやり方に苦慮しているということでした。ここから私自身もユニットケアを勉強しなおし、いろいろなセミナーに参加しました。特に最初に勉強させてもらった鳥取のゆうらくさんでの個別ケア、施設と在宅の連続性、福祉用具の活用の仕方は私の考え方のベースになりました。またユニットケアを推進実践されている武田和典さんには、東日本大震災以降復旧ボランティア活動でお会いするたびに、考え方の方向修正を何度もしてもらいました。
そこで知ったのは、介護は高齢者のお世話をしているのではないということです。24時間シートというその人だけの計画書を作成し、その人の生活パターン、好みを把握し、そこでサポートすることを決めていっています。過去の生活様式も家族から聞き出し、老人ホームに入居する前の生活からの継続できるよう努力しています。
当時の私にとって大きな衝撃でした。ナースコールで呼ばれたからそれに対応しているのではなく、その人を理解した上で予測しながら行っているのです。ユニットリーダー研修に行ってもらったスタッフは希望に満ち、やる気満々で帰ってきますが、これが長く続きません。できなくなってしまう何かがあるのです。それには生産性の向上を目標とした業務改善が必要と考えるようになりました。
その後の私のテーマは介護スタッフの生産性の向上実現です。2009年(平成21年)からは若手介護スタッフとともにタイムスタディも行い、施設内の業務改善に取り組んできましたが、時間の集計はできても、実際の改善はうまくいきませんでした。
2015年(平成27年)、菊池製作所との出会いと共に、テクノロジーを活用し業務改善をという思いで、開発を始めました。ちょうど2017年(平成29年)にとロボット介護機器の開発重点分野の変更があり、この業務支援の分野が対象になりました。これは私にとっての大きな希望となりました。
数ある介護記録シフトウェアの中から株式会社エフトスが開発するFTcare-iをベースに、カレンダー機能の追加、入力方法の充実などを行ってきました。
さらに、入力の省力化のためには、センサ連携は不可欠と考え、電気通信大学発ベンチャーのワイヤレスコミュニケーション研究所の実証実験をお手伝いしてきました。
千葉大学との睡眠解析+バイタルデータによる健康度解析、電気通信大学との位置センサを主とする複数のセンサ情報からの要介護度判定などは興味深いものでした。
これらの実証、開発は引き続き継続していますが、複数の施設(東京都、栃木県、福島県、愛媛県)での実証経験により、本当の課題が見えてきました。
現在開発が進められているセンサと記録の連携は、現場のスタッフの負担や責任を増大することにつながっていくように感じています。
当たり前のようにできているはずと思われているコミュニケーションがうまくいかず、リーダーも、新人も困っています。
ここをうまくつないであげる仕組が必要です。ただ単に今の仕事をデジタル化するだけでは足りないと思います。
2020年はこのコミュニケーションを円滑にするための仕組み作りを行っていきます。
この図は、業務改善を行うために私が大事にしている図です。この3点を同時に達成させるシステムで無ければ、介護現場の改善はできないと考えています。これらが、経営者の確固とした理念・リーダーシップがなくてもできるシステム開発が私の目標です。